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[短編小説]『勝負の流儀』(後編) [オリジナル小説]

ええっと……。

まぁ、随分と間が空きましたが、とりあえず後編です。

前編はこちらに→■[短編小説]『勝負の流儀』「ズルいわ」
 彼女の第一声はそうだった。
「ああ」
 僕はその謂われある誹りに対して短く頷いた。
 お互い言いたいことがたくさんあるのに、何から先に伝えればいいのかもどかしい時間が過ぎる。
 刹那の永遠。
 そんな言葉を感じた矢先に彼女が言葉を紡いだ。
「あんなのズルいわ」
「……そうだね」
「………………」
 怒りとも、憤りとも、呆れともつかない沈黙が携帯の向こうから流れる。
 その中に微かながら安堵の息づかいが聞こえてくる。
 僕はそれを確認してからとどめの言葉を言い放った。
「それでも、このゲームは僕の勝ちなんだろ?」
「……っ!」
 はっと息を飲む声が受話器越しに伝わってきた。
 何か言いたそうな、間が流れる。ここで何か言えばおそらくは失敗だと、僕は彼女の言葉を待った。
「……そうね……そういうルールだったわね……」
 彼女はことさら『ルール』という単語に力を入れて言った。要は僕のしたことがルール違反だと非難しているようにも聞こえる。
 僕らは数日後に会う約束だけして、その電話を切った。
 数週間ぶりに再会した僕らは、先日の電話のまま、気まずい感じであった。
 ただ彼女の方は数日の間に言いたいことを整理してきたのか、言いたいことを言っていた。
 僕の方はただただそんな彼女の声を聞いてぼんやりしていた。
 怒っていようが笑っていようが関係なかった。
 再びこうして彼女と会えることこそが僕の望みだったのだ。それが叶った今、それ以上何も望むことなどなかった。
「ちょっと、聞いているの?」
 少し苛立った様子で彼女は僕に問いただしてきた。
 しまった、さすがに少しぼんやりしすぎたか。
「もう、絶対そっちからかけてくるって思っていたのに……」
 とにもかくにも、僕から電話をしなかったことに対して彼女は怒っているらしい。
 つまりそれは僕が彼女にぞっこんだってことはもうすっかり知られていた、ということだ。
 だからこそ、姑息な手段で彼女から電話をさせた僕がどうにも腹立たしいらしい。
 しかしそれは逆に、敢えて自惚れて言わせてもらえるならば、彼女も僕に会いたがっていた、と考えてもいいのだろう。
 とにかくその日の彼女の言葉は、
「卑怯よ」
「今回のはノーカウントよ」
「絶対にそっちから電話するもんだとばかり……」
 の繰り返しである。
 まぁ、つまりはとっとと僕から電話してほしかったと言うことである。
 冷静に考えてみれば、もしかしたら彼女は僕にゲームを持ちかけてきた時点で、僕は罠にはめられていたのかもしれない。
 まぁ、それをあんな手で返されてしまったのだ。彼女の憤りもわからなくはなかった。

 ……そして。

 あれから一年が過ぎた。
 僕と彼女のゲームはまだ終わらない。
 そう。
 僕と彼女は、まだ恋人の振りをし続けているのだ。
 こんな楽しいゲームを簡単に終わらせたくない。
 その気持ちは僕も彼女も同じなのだろう。面と向かって確かめたことはないが、おそらくはそうに違いない。
 その後、彼女はなにかことあるごとに、僕にあの言葉を言わそうとする。僕はその言葉を危うく何度も口に出しそうになるのだが、それはこのゲームのエンディングにたどり着くフラグを立ててしまうことになる。
 それまでにはもう少しこのゲームを楽しんでもいいじゃないか。
 僕は僕で、彼女がこのゲームのコンティニューを選び続けるように会話をし向ける。
 頭の良い彼女にそれを悟らせつつOKを出させるのは毎回結構骨が折れるんだ。
 でもお互いにその関係を楽しんでいる。
 それが僕と彼女の勝負の流儀なのだ。
 最後に僕がどんな方法で彼女に電話をかけさせたか、言っておかないといけない。
 僕は彼女の家に置いてきた缶ビールの箱の中に、紙を入れておいたんだ。
 そう、僕らの最初のゲームの期限が来る少し前に、二人で買ってきた缶ビールの段ボールケースの底に、だ。
 その紙に僕はこう書いた。
「好きだ。電話して欲しい。090ーXXXXーXXXX」
 彼女は今でも、あれは卑怯だ、と僕を責める。
 僕はそれをいつも苦笑いで受け流すのだった。
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